口腔外科担当 医療法人社団マハロ会 口腔外科部長
歯科医師(医学博士) 西原 昇インタビュー
ひとつ言えるのは「あなたにとって最善の方法を取って、出来るだけあなたが辛くないように頑張ってやります」ということです。
目次
先生は日本口腔外科学会の「指導医・認定医」と伺いました。新橋赤レンガ歯科クリニックでは、何の治療が一番多いですか?
親知らずの抜歯が一番多いですね。
あとは外科処置的なもの・・・たとえば「歯根端切除(しこんたんせつじょ)」といって根っこの先にたまった膿を取るもの。
あとはインプラント、顎関節症(がくかんせつしょう)ですね。
新橋は、仕事で忙しい人が多いですよね。
抜歯は、大学病院では問診や診察をして次回に抜糸の予約を行い「また来てね」という感じになると思います。
新橋赤レンガ歯科クリニックでの私の診療は月1回ですが(※)、時間を合わせていただければ、僕だったらほぼその日のうちに抜いちゃいます。
(※)同じ医療法人の医院での診療があるため
忙しいビジネスマンにとって、抜歯が1回で済むのはいいですね。
抜歯の患者さんばかり集める医院さんだと、1日に午前午後合わせて20本くらい抜くこともありますよ。
すごい本数ですね!ちなみに先生は自分の親知らずを自分で抜いたとそうですが。
極端な話、抜歯は「感触」が大切です。
自分で抜いたのは上の親知らずなので、鏡で見ても見えません。
当たっているところさえ間違えていなければ、感覚を頼りにして抜くことができます。
ちなみに、下の歯の虫歯の神経を取るのも自分でやりました。
朝から自分で麻酔を打って、鏡を見ながら削りました。
インプラントはさすがに自分では出来ませんが、かぶせ物は自分で作りました。
歯を抜いている数は、多いです。
指導医は、抜歯を現場でしなくなることが多いです。
現場にいる指導医の先生は、少ないのですか?
指導医は、本来は後輩の指導が優先です。
抜歯は全ての口腔外科処置に繋がる基本的な手術なので若手にさせることが多く、指導医クラスになると抜歯する機会は減ってきます。
でも、ご紹介いただいた患者さんの責任は持ちたいので、病院勤務時代でも自分で抜いていました。
抜歯は「パズル」なのです。
先ほど「感触で」という話をしたじゃないですか。
ここに力を掛けたらこう動くはず、動かない、じゃあ「レントゲン」と「口の中の状況」と「その力の掛かり具合」を頭の中に全部入れる。
そうすると「ここが引っかかっているから、これは抜けないんだな。引っかかっているところを削れば、抜けるんだな」となります。
そう考えると、引き出しが多いことが有利になります。
先生、お話が分かりやすいですね!
話も重要な仕事だと思っています。
実際に歯を抜く時間は、どれくらいですか?
ここ20年くらい、1時間以上掛かったことはありません。
アゴの骨の中に埋まっている親知らずでも30分以内、他院で抜けないといわれた歯でも30分以内を目指します。
ちなみに、この時間は、お話をして、麻酔が効くのを待って、抜いて、「終わりました」と診察室を出るまでの時間です。
「抜いている時間が30分」じゃなくて、「椅子に座ってから終わるまでが30分」なのですね!
予約の時間が30分です。
大学病院で「3人がかりで4時間掛かっても、親知らずは抜けません」と言われた人も、当院で抜いていますよ。
僕が抜けないケースは、物理的に神経に当たっていて、これを抜いたら神経麻痺が出るから抜けないということはありますが、技術的に抜けないことはないです、歯か骨を削れば出てくるのですから。
「抜けるか?抜けないか?」の差は、「引き出しが多いか?少ないか?」です。
「抜けなかったので抜いてほしい」という依頼が他院からの依頼もあります。
その場合、元の形が分からないから抜きにくいのです、情報が少なくグチャグチャになっていることもあります。
でも、情報がある程度揃って「これだな」と思ったら早いのです。
今まで29年やっていて、他の先生が抜けなくて引き継いで僕も抜けませんでしたというのは1回もないです。
自分が抜いていて「先っぽをこれ以上触ると神経に触るな」と撤退したのは正直何例かありました。
他の先生が抜けなくて依頼が来て、僕が抜けると判断して、抜きだして抜けなかったことは一例もありません。
15年前くらいに「引き出しは揃った」と自分では思っているので、出来るだけ患者さんに侵襲(しんしゅう:体に与えるダメージ)を与えないで抜いています。
例えば、普通だったら歯ぐきを切って、開いて、見えるようにして抜く親知らずを、大きく切らないで抜くとか。
骨を削るケースを削らないで抜く、歯の方を小さくして抜く、などです。
歯を小さくして抜く?
歯ぐきも剥がさなければ腫れも少ない訳ですよ。
ですから、歯ぐきを切らないで済むなら、なるべく切らない。
同業者に「なにそんな面倒くさいことしているの?」と言われます。(笑)
そ、そうなんですか?
「切って開いたらよく見えるのに」と。
年間400本くらい抜いています。
「あそこで抜いたらすぐに抜いてくれる」「そんなに腫れないから」とご紹介いただくこともあります。
でも痛みは・・・どうやっても約束できない、その方が痛いと思ったら痛いわけですから。
抜歯している最中は麻酔をしているから痛くないけど、術後はやってみないとわからない部分があります。
ただ、出来るだけ腫れさせない工夫はしています。
腫れも治ろうとしている反応なので、腫れること自体は悪い反応ではありません。
工夫として「歯ぐきをなるべく切らない」「骨を削らない」を、出来るだけやります。
「直視直達(ちょくしちょくたつ)」が外科の基本です。
若い先生には「大きく開けて、よく見えるようにして抜けよ、俺の真似はするなよ」と言います。(笑)
魔法使いじゃないから、なんでも数十秒で抜けませんし、僕だって30分40分掛かることあります。
ひとつ言えるのは「あなたにとって最善の方法を取って、出来るだけあなたが辛くないように頑張ってやります」ということです。
上の親知らずでも、スッと抜けないこともあります。
術前、患者さんに色々説明します「まれに根っこが折れて2~3ミリ残ることがあります。残っても何も問題なく傷は閉じるんですけど、私の心の傷が閉じないんですよ。」と。
先生、座布団1枚!(笑)リラックスします。
最近、これで笑いを取っています。(笑)
抜く前に、時間が掛かることがある、下の親知らずでマヒが出ないと思って抜いてもリスクはある、などの説明を全部します。
患者さんに「あんたの話が一番怖かったわ」と言われたことは何度もありますが、説明はちゃんとしないとですよね。
大学病院で抜くより侵襲(しんしゅう)が少なく、出来るだけ短時間で済ませます。
「新橋で働くビジネスマンの抜歯は、大学病院に行くより早く終わります」ということは言えます!
心強いです!ちなみに、口腔外科で「実はこんな治療法があります!」というものはありますか?
外科的な治療だと、歯根端(しこんたん)は勝負が早い、一発で終わります。
歯根端切除(しこんたんせつじょ)は有用な手術です。
しこんたんせつじょ?
歯の根っこの治療です。
出来る部位が限られています・・・1番奥の歯は無理、内側は出来ないなどの制限はありますけど。
根っこの治療でなかなか治らない、膿が止まらない、そんな場合の外科処置として有用ですね。
あと、「歯を抜いてインプラントですね」と言われたけど、もしかすると抜かないで外科処置で何とか出来るかもしれない・・・例えば、抜いて、外で掃除して、また戻すとか。
歯を抜いて、掃除して、戻すんですか???
どうしてもインプラントにしたくない方には、「歯の再植(さいしょく)」という方法も検討出来ます。
以前「歯の移植(いしょく)」が出来ると聞いて驚いたのですが、「再植」という裏技もあるんですね!
「歯の移植」は失敗したときのデメリットが大きいですが、やれます。
先日も、上の親知らずを抜いて、下の奥歯に移植しました。
再植は正確には「意図的再植術(いとてきさいしょくじゅつ)」といいますが、根っこの治療で治らず歯根端切除ができない場合、歯を1回抜いて、外で「歯根端切除」をして、詰め物して、キレイにして、それを戻すんです。
中の汚かったところを全部掻き出して戻します。
レアな情報を聞けて、よかったです!
「意図的再植術」、つまり「歯の再植」は歯がキレイに抜けないと出来ません、抜くときに歯の根っこを壊したらNGです。
「意図的再植術が出来るか?出来ないか?」という判断も出来ないといけません。
「これは簡単に抜けないから、意図的再植も出来ませんよ」というパターンもあります。
出来るかどうか?の見極めが大事なのですね。
意図的再植術は、「歯を抜いちゃいますよ」という前提のもとにやります。
「うまくいったら戻せますよ」というくらいの感覚です。
僕が患者さんに説明する時は「この歯はもう抜かなくちゃダメですね、しょうがないですね。で、相談ですが、こんな方法があるんです。」という話し方です。
あくまでも最後の手段として考えています。
そもそも抜かなきゃならない歯だけど、もしかすると「意図的再植術」で救う事ができるのでチャレンジしますか?ということですね。
はい。
まず、抜くことを納得してもらわないと説明しにくいです。
いろいろな裏技を伝授していただきありがとうございます!先生、お休みは何をされてますか?
テニスです!靴下焼けしています。
身長は何センチですか?
187センチです。
ご出身は?
埼玉の川口です。
大学だけが岡山です。
ありがとうございました!
こちらこそありがとうございました!
取材後記
テンポよくテキパキとお話をする西原先生。
「抜歯が怖い」と思う患者さんの心理を慮って、ちゃんと笑うポイントを作ってお話をしてくれました。
もちろん取材している側も大笑い、落語を聞いているようなテンポ感でした。
患者さんに対しての話術も面白いだろうと想像できました。
また、「勝率」や「勝負」などという表現をするあたり、先生の治療は常に真剣勝負だと改めて認識しました。
本来指導医なので現場で抜かない立場なのに現場が大好き、そして治療が早い、さらにあまり知られていない口腔外科の裏メニューのような治療法(歯根端切除、歯の再植)を提案していただける引き出しの多さに感服しました。
なかなか治療に時間が割けない忙しい新橋のサラリーマンの方々の強い味方だなと実感しました!