目次

専門は「歯の保存」です
【理由1】ブリッジは「3人」の仕事を「2人」ですること
奥歯はインプラント、絶対やった方がいいです
【理由2】入れ歯の噛む力は「6割」
【理由3】奥歯が「1本」抜ける=噛む能力が「17%」落ちる
歯周病でアゴの骨が溶けるのは、○○を守るための手段
【理由4】お財布は痛いけど「健康力」は上がる⇒長い目で見れば安い
【理由5】母も姉も私も、インプラント治療の予後が良い
取材後記

先生は「保存修復」を勉強されていたそうですが、それって何ですか?

皆さんが歯医者に行く理由です。

虫歯とか、ですか?

歯が痛い=歯髄炎になっているということですね。

そのために、根の治療や詰め物/かぶせ物をします。

大学の専門が歯の保存、なるべく自分の歯を残しましょうというところがスタートです。
実は以前、血を見るのもあまり好きじゃなかったんです。(笑)

「患者さんの気持ちが分かる」ということですね。

僕が小さい頃、おばあちゃんがミカンをクチャクチャとやって口に入れてくれていて(※先生は香川で育ちました)・・・親に「それ、絶対やっちゃダメなやつだよ」と学生の頃に話をしたら「その分いっぱい愛情を貰ったでしょう」と。(笑)
小学校の低学年の頃から、歯医者での嫌な思い出がたくさんあります・・・。

例えば?

小学校の校門を出て真横に歯医者があったんです。

抜歯する時に麻酔が効かなくて、隣に同じクラスの女の子がいたけどおびえた目でこっちを見ていて・・・こっちは痛すぎて泣いているんですよ。
小学校2年の時に学級委員長をやっていたんですけれどね・・・というのが、歯医者での悪い思い出の最初ですね。

昔は予防で歯医者に行くということ、なかったですもんね。(インタビュアーは50代)

歯医者は理詰めで治すんですよ。

野球の野村監督が「勝つのには不思議な勝ちがあるけど、負けるには必ず負ける理由がある」と言ってたんです。
(歯が)残らないのに「残してあげよう」と思ったところが失敗に直結することもあります、歯を残すのが無理なところを断れずに失敗に引きずり込まれる・・・。

具体的にはどういうことでしょうか?

歯周病になった歯は、アゴの骨が溶けちゃっているんです。そうすると、指で動かせるんです。

歯が指で動かせるって・・・。(自分の歯を触ってみる)

「でも残してほしい」と患者さんは言うんです。

僕も若い頃は「残してあげるのが正義」だと思っていた、保存科だったのでなおさら頑張りすぎたこともある。

だんだん説明もうまくなってきて、結論は「抜かなきゃダメなんです」なんですけれど、順序立てして話が出来るようになってきたんです。

大学卒業後、大学病院にいた時は患者さんの質問に全部答えようと思ったんです。
むしろドクターになってから、勉強しなおしましたね。

患者さんへの説明の仕方も大事ですよね。

僻地診療で、伊豆七島の島に行ったことがあります。
先輩のドクターが1人いたんですが「説明が長い」と怒られて。(笑)
当時、大学病院では1人1時間取っていたので話が出来たのですが、そこから手短に話せるようになりました。
島の治療は特殊で、歯を残そうと思うんですけど当時の漁師さんたちは待ってられないので「抜いてくれ」と言うので、抜いて入れ歯、抜いて入れ歯、でした。
島では入れ歯ばかりで、毎日型取り毎日セットでしたね。
ちょっとカルチャーショック、同じ東京都なのにな、品川ナンバーなんだけどな、と。(笑)
あと、精神科の病院の歯科室にいたこともありまして、手早く話をまとめないといけない。
そこでも鍛えられましたね。

大学病院時代は研究員として、「接着の基礎研究」をしていました。

接着ってなんですか?

CR(コンポジットレジン)という、歯の修復用のプラスチックがあるんですが。
歯は「親水性」なんですけれど、レジンは「油」なんです。
水と油をどうくっつけるか、いかに強固にくっつけるか?の研究です。

先生から見て、インプラントはどうなんでしょうか?

ちなみに、ブリッジは両脇の健康な歯を削るんですが、どれくらいまで削るんですか?

詰め物を入れる前に削るとこうなる。
(虫歯より大きく削る「イメージ」)

見た目はちょっとしか黒くなっていなくても、削るのはムッチャ削らないとならないんですね・・・。(涙)

リンゴ?

フレッシュなところが出てくるまで、結構切ります。

なるほど。先生、説明分かりやすい!

茶色いところは腐っています、黄色いところはフレッシュです、ガンだったらどこまで取りますか?と言ったら、ちょっとフレッシュな外の部分まで取るんです。

歯の中では、表面のエナメル質(上部画像参照)が一番硬いんです。

虫歯になって黒くなっている部分の見た目は小さいんですけれど「何でこんなに大きく削るの?」と言われます。

一番硬いエナメル質の下にある「象牙質」は柔らかいので、中で虫歯が広がっちゃっている。

そこを全部どけると、これだけだったのがこうなっちゃう。

「痛そう」って言われるんですけれど、穴を開けてアゴの中にチタンのネジを植える。

言葉の意味が分かると、納得度がUPします。しかも、この説明画像(先生が指さしているモニター)分かりやすいですね。

・・・1本しか抜けていないときは、これがベストの治療方法ですよね。

ただ、日本人のアゴの骨は、欧米の人より細いし、歯の長さも短いんです。
歯の色も、欧米の人って白くていいなと思うかもしれないけど、あれは「エナメル質の厚さの違い」なんです。

黄色人種だから黄色という、色素の問題じゃないんですね?

象牙質の色は、そもそも黄色っぽい色をしているんです。
向こうの人達、アングロサクソンと呼ばれる人たちは歯の一番外側のエナメル質が「2ミリ」あるんです。

モンゴロイドと呼ばれる僕たちのエナメル質の厚さは「1.2ミリ」、つまり6割なので内側の象牙質の色が透けて黄色く見えるんです。

人種の違いなので、しょうがないです。

はじめて聞きました。

アゴの骨も細かったり小さかったり。
たとえば、歯の本数は何本あるか知ってます?

32本。

32本あると、現在では珍しい部類の人に入ります。

私、矯正したので24本しかないです。

なんで矯正が必要かというと、顔が退化したから、です。
王選手みたいにエラが張って充分に歯が入る余裕なアゴだと、32本並ぶんです。
縄文人の遺骨を見ると「歯から感染起こして死んだな」というのが分かるんです。
歯髄炎を起こして、そこから腐って。

縄文人は、歯の事で死んじゃうんですね・・・。

そうすると生物学的には退化していることになる。
ちなみに、盲腸はどんなイメージですか?

虫垂炎!

ですよね、炎症を起こすだけの器官。
昔は役割があって、硬い木の葉っぱなどを溶かす役割があったんです。

知らなかったです~。

そういうものを食べなくなったので、小さくなって退化して、炎症だけ起こす悪者みたいなイメージになった。
親知らずも盲腸も、昔はちゃんと意味があって使われていた組織なんですけれど、食べ物がよくなったり硬いものを噛まなくなると顔がスリムになって、歯が並ばなくなった。
なので、お金を掛けて歯並びをキレイにしてあげるようになったんです。
もう一つ言うと、矯正は日本人には向かない、アゴの骨がヨーロッパの人より薄くて歯の長さが短いから。
向こうの人達って長くてガッツリしているので、反動が出にくい。
日本人がやると歯の根っこが短くなるので、非抜歯でも「この人矯正したな」と分かります。
根っこの形が吸収したね=丸くなったね、というでも分かります。

歯の模型なんですけれど、例えば右の奥歯がないとします。

(模型から歯を取るのを見て)そんなにボンボン抜けるの、嫌ですね。(笑)

・・・分かんないです。

え?!「出っ歯」になった!

奥歯を復活させて噛むと、前歯の出っ張りが減ります。

ブリッジだけじゃなくて、入れ歯も隣の歯に負担が掛かるということですね?

ちなみに、最初に抜けてくる歯は奥歯ですか?

「歯が1本くらいならなくてもいいか」と思う方も、いるかもしれませんが。

(下の歯が抜けたままだと)上の歯が落ちて、下の歯が伸びる!?

それはそれですごいですね!でも嫌です。(汗)

人体、すごいですね。

なので、治す時の「噛む面の計画」が大事です
適当に作ったらグチャグチャになって噛めません・・・都市計画と同じです。
その計画の話をして納得してもらえると、お任せいただけることが多いですね。

インプラントも「向くところと向かないところ」がある。
骨粗鬆症とか、糖尿病だと治りが悪いので難しい、あと心臓や脳血管が詰まったことある人は血液が固まらない薬を飲んでいるので、その薬との兼ね合いがある。

インプラントは他の歯に負担を掛けない・・・例えば歯を1本失った時、ほっといたらNGだということも分かりました。ちなみに、先生がインプラントを入れたのはいつぐらいですか?

7~8年前ですね。

中学生の時にバスケをやっていた時に人の頭に激突して歯が欠けまして、差し歯だったんですが、そこがスキー場で腫れてきたんですね。

CTを撮ったら悪くなっていて、抜いてインプラントにしようと。

幸い歯周病じゃなかったので、アゴの骨はしっかりまだ残っている。 歯周病になると、歯の周りの骨が溶けていくんで。

(モニター見て)これ分かりやすいですね、しかし周りの骨が溶けるとは・・・。

(アゴの骨の)溶ける原因が「汚れ」?

初めて知りました!!自分(骨)を菌から守るために逃げていく=骨が溶けるんですね!しかも痛くないなんて。

体の免疫の方も「汚れている歯=こいつは異物だ、サヨナラだ」と、摘出したくなる。
骨が感染すると命にかかるので、異物から逃がして行く。

歯に歯石がいっぱい付いて、汚いもの認定されると「さよなら~」って。切ない・・・。

成長期は骨を骨芽細胞(こつがさいぼう)が作って、破骨細胞(はこつさいぼう)が古くなったのを取るのですが、作る方が多い。
「作る」と「取る」バランスが取れたら大人。

成長が止まってイーブンになることです。

今度は年取って作るのが衰えてくると、骨粗しょう症・・・食べる方(破骨細胞)は元気なんだけど、作る方(骨芽細胞)が「はー、もう無理だよ~」と。

分かりやすい骨のサイクルの説明、ありがとうございます!先生のインプラントの売りは?

(インプラントを)やるとお財布は痛い、手術30万円、歯のかぶせ物が15万円なので。

長い目で見れば安いと思います。

先生はインプラントを結構打ってきたんですか?

お母さんの予後(よご:経過)はいかがですか?

まだ全然ロストしていないので、良いですね。
実はインプラントは1ミリも動かないんです、骨に刺さっているから。
一方、周りの歯は「宙づり」になっているんです。

宙づり??

神経を取っても「噛んだ」と分かるのは、歯の周りにセンサー(歯根膜:しこんまく)があって沈み込むから「噛んだ」と分かるんです。
「全く動かないもの(インプラント)」と「動くもの(自分の歯)」の間で何が起こるかと言ったら、インプラントだけにカチカチカチ噛んだ時に、早く当たっちゃう。
そうすると壊れる。

これがちゃんと噛んでるといい音がするんですけど・・・いつもこの音も聞いてるんです。(模型を持ってカチカチさせている)

初見でも、噛み合わせの不調和が見つけられます。

「歯の当たる音」だけで、噛み合わせの不調が分かるんですか?

音だけではないですが、話を聞いて、レントゲンを撮って、何にもないのに調子が悪いって何?といった時に、最後「噛み合わせ」にたどり着きます。
咬合紙(こうごうし:下記画像参照)という赤や青の紙を噛んでもらいます。

なので、すごい量の咬合紙使います。(笑)
最後にはたどり着くんですけど、そこまで診る事が出来る先生は少ないですね。

「特定の歯は治すけど、お口全体は診ないよ」というところが多いんですね。

インプラントを他の医院で打った患者さんで、「インプラントを入れたところが痛い」という方がいました。
先生に「痛いです」と言ったけど「なんもない、ちゃんとしているから」と言われたと。

「噛み合わせ」が間違っていたんですね・・・噛み合わせを調整して、どうですか?と聞いたら痛みなくなったと。

インプラントの上に乗っている歯を、削って調整したんですか?

そうです。「ちょっと」は、どれくらいだと思います?

1ミリくらい??

髪の毛1本噛んだら分かりますよね、それくらい口の中は繊細です。

みなさんよく会議で「1ミリも議論が進まなかったよ~」と言いますが、僕らにとっての1ミリは「メッチャ進んだじゃん!」って。(笑)

(笑)歯医者あるある、ですね。先生は話がおもしろいですね。

ちなみに、どれくらいの本数のインプラントを打っていますか?

先生自身も先生のご家族もインプラントを入れているなら、安心ですね。

新橋は患者さんの多様性があります。
会社員の人もいれば飲食業の人もいる、ビルのオーナーの人などもいる。
歯を失った時の治療の選択肢を、患者さんごとにお話しできます。

とにかく説明が分かりやすくて、面白い!
そもそも歯医者さんで聞く話は、専門用語が多く聞き返していいのか悪いのか分からないという方、多いと思います。
インタビュアーは、今まで100人以上の歯科医師に話を聞きましたが、こんなに分かりやすく説明してくれる先生はいませんでした。

また、模型を持って来て「奥歯が抜けたままにしていると、どうしてダメなのか?」を本当に分かりやすく伝えてくれ、ガッテンしっぱなしのインタビューとなりました。(笑)
保存科の説明も分かりやすかったですし、保存をやってきたらからこそインプラントの大事さも分かるんだなと感じました。

コンテンツ目次

「実はこんな治療法があります!」というものはありますか?

歯根端(しこんたん)は勝負が早い、一発で終わります。
歯根端切除(しこんたんせつじょ)は有用な手術です。

しこんたんせつじょ?

歯の根っこの治療です。
出来る部位が限られています・・・1番奥の歯は無理、内側は出来ないなどの制限はありますけど。
根っこの治療でなかなか治らない、膿が止まらない、そんな場合の外科処置として有用ですね。

あと、「歯を抜いてインプラントですね」と言われたけど、もしかすると抜かないで外科処置で何とか出来るかもしれない・・・例えば、抜いて、外で掃除して、また戻すとか。

歯を抜いて、掃除して、戻すんですか???

どうしてもインプラントにしたくない方には、「歯の再植(さいしょく)」という方法も検討出来ます。

以前「歯の移植(いしょく)」が出来ると聞いて驚いたのですが、「再植」という裏技もあるんですね!

「歯の移植」は失敗したときのデメリットが大きいですが、やれます。

再植は正確には「意図的再植術(いとてきさいしょくじゅつ)」といいますが、根っこの治療で治らず歯根端切除ができない場合、歯を1回抜いて、外で「歯根端切除」をして、詰め物して、キレイにして、それを戻すんです。
中の汚かったところを全部掻き出して戻します。

レアな情報を聞けて、よかったです!

「意図的再植術」、つまり「歯の再植」は歯がキレイに抜けないと出来ません、抜くときに歯の根っこを壊したらNGです。
「意図的再植術が出来るか?出来ないか?」という判断も出来ないといけません。
「これは簡単に抜けないから、意図的再植も出来ませんよ」というパターンもあります。

出来るかどうか?の見極めが大事なのですね。

意図的再植術は、「歯を抜いちゃいますよ」という前提のもとにやります。
「うまくいったら戻せますよ」というくらいの感覚です。
僕が患者さんに説明する時は「この歯はもう抜かなくちゃダメですね、しょうがないですね。で、相談ですが、こんな方法があるんです。」という話し方です。
あくまでも最後の手段として考えています。